■第一回 月姫前夜
■第二回 初期衝動
■第三回 産みの苦しみ
■第四回 明暗
■第五回 名残りの月
■第六回 閑話2
■第七回 奈須
■第八回 茄子
■第九回 冥土。
■第十回 比翼の鳥
■番外編 6時間耐久チャット
■番外編 その2 サークル紹介


註1
初回版のプレス数は1000枚。 無名のサークルとしては結構冒険である

註3
フリーのノベルゲーム制作ツール。 数多あるノベルツールの中でも群を抜いた できの良さを誇る

註5
一つの出来事を複数の視点から描き、 かつそれぞれの物語が相互に干渉し合うシステム


第五回 名残りの月


はじめはかつがれてるんじゃないかと思いました
編集 様々な苦労の末月姫は完成したわけですが、
はじめは売れ行き等いかがでしたか
武内 はじめ作った枚数(註1)ですら売り切れるかどうか
不安だったんで(笑)1年くらいかけて
これだけいけばいいかな、と
奈須 ゆっくり売っていこうと思ってましたね
武内 それが、すぐなくなってしまった
奈須 はじめはその、嬉しい悲鳴というより
かつがれてるんじゃないかって(笑)
武内 当時は嬉しかったんですけど、
今の方がむしろかつがれてるんじゃないかって
感じですね(笑)今、月姫オンリーイベントを開催したい(註2)
というお話を頂いているのですが。
「すげぇー!!」っていう反面
奈須 それこそ、かつがれてるんじゃないかっていう
一同 (笑)
武内 ただ、あの頃はまだ勤めてましたんで、
ショップへの対応とかはかなり辛かったですね
奈須 1月から3月にかけては、結局事務処理しか
できませんでした。「歌月十夜」を作るとか
言っときながら、話し合いもできない状況で。
武内 結局、そういった状況をすべてOKSG君に引き継いで
もらう形になって、随分と楽になったんですけど。
まだ自分が勤めていた頃はOKSG君も結構時間の
融通のきく仕事だったんですよ。それもあったんで
できれば専念してもらいたいな、と
OKSG 自分が引き受けてその分二人に他の仕事に専念して
もらえるなら、それはもう自分が引き受けましょう、と。

システムあってこそのシナリオの評価
編集 「月姫」はどういったところがユーザーの皆様に
評価されたのだと思いますか?
武内 やっぱりシナリオでしょうね。シナリオがいいというのは
自分たちもそう思って作ってましたし、そこを面白いと
言ってもらえるのは嬉しいです。
ただ、シナリオを読んでもらえたというのにはやっぱり、
システムがしっかりしていたというのがあると思います。
月姫は奇跡的なバランスですごくいいものに
仕上がっているんじゃないかと思うんですね。曲にしてみても
サウンド担当がすごく忙しくて、はじめから書き下ろして
もらった曲っていうのは実は少なかったりします。
彼が昔作った曲を月姫用にアレンジしてもらったものが、
雰囲気に非常に合ってくれた。
あと、「Nscripter」(註3)というフリーのツールを
使わせてもらってるんですけども、あれが非常にできがいい
ツールだったというのもありますね。そういう部分で、
シナリオを読んでもらうことに集中できるよう、非常にうまく
できあがっていたからこそのシナリオの評価なのかな、
と思いますね。

ファンディスクだと思って購入した人が
「うそ!?」と驚くようなものを作りたい

編集 「歌月十夜」についておうかがしたいのですが
武内 うーん、苦労してます(笑)思ったより時間がなかったですね。
編集 収録する作品をHPで募集しておられましたが
武内 はい。月姫を楽しんでくれた方のものを募集してますので、
そういう意味ではすごく面白いモノができそうだというのは
ありますね。月姫を見て創作系の人が結構刺激を
受けてくれたみたいで。そういう方の投稿もあったり。
あとはゲストの原稿などでもすばらしい絵をいただきまして。
それに負けないようにがんばっているという感じですね
編集 「TYPE−MOON」は月姫を作るために立ち上げた
サークルだったわけですが、歌月十夜の後は
どうなるのでしょうか
武内 今のところ未定ですね。まあ、ぶっちゃけた話
次回作の構想自体はあるんですけれども、
これからどうなるかはちょっとわからないですね
奈須 すべてはお祭り(「歌月十夜」のこと)を成功させた後ですね。
成功といっても「完成するかどうか」っていう、
ミニマムなところの話なのですが(笑)
武内 まあ、自分達が納得できるものを
ちゃんと作れるかどうかってとこですね
奈須 TYPE−MOONはユーザーが甘く見ているのを
びっくりさせたい、というのが根底にありまして。
今回も「お祭り」と言っておきながら、しっかりした物を
形にしたいなと。ファンディスクだと思って購入した方が
「うそ!?」と驚くような、そういうものを作りたい
武内 色々な要素を詰め込みたいとはじめは思っていたんですよ。
「こういうものが欲しい」という要望が多く来ましたので。
たとえばさつきのシナリオであったりとか。なるべく
応えていこうと思ったんですけど。「歌月十夜」で
これをやろう、という部分を中心に考えていった場合、
やっぱり不要な部分というのがあるんですよ。
それと、時間的に無理な部分というのがやっぱりあって。
結局、できないということで切り落としてしまったんですけども。
その分まとまりが良くなったのかな、とは思いますね
奈須 形としては美しい
編集 なるほど。かなり期待していいわけですね?
奈須&武内 いやいやいやいや!お祭りはお祭り(註4)
武内 単純に、過剰な期待はしないで欲しいんです。
「歌月十夜」は基本的には、月姫を楽しんでくれた皆様への
最後のサービスみたいなものですから
奈須 「歌月十夜」は基本的に馬鹿話の集合体なんで
武内 ちょっと難しい位置付けになってしまったというのは
あるんですね。はじめは分けようと思ったんですよ。
ここまでは月姫の正当な話、ここからははっちゃけた
なんでもありの部分。という風に分けようと思ったんですけど
それがややこしくなってしまったんで結局なんでもありだけで
まとめたんですよ。そんな感じなんでまあ、
基本的には面白おかしく
編集 「お祭り」として楽しんでください、というスタンスで
武内 そうですね

「月姫2」はザッピングシステムADV?
編集 くだんの「月姫2」についてお聞きしたいのですが
武内 まあ、ヨタ話ですね。完全に。流れも見えてない
奈須 ただ、こう始まってこう終わるっていうのは、
もうできてるじゃない
武内 うん・・まあ・・・
奈須 今回は主人公を2人にして
ザッピングシステム(註5)にしようとか
一同 (笑)
武内 すごい細かいとこで決まってたりはします。
やりたいなっていう気持ちは、ないことはないんですけど。
もともと、(資料集の)用語辞典を作っていた時に
「死徒が27人いるから、それちょっと考えてよ」
と言ったのがはじまりなんです。そうしたら奈須が
「ちょっと考えてるんだけど、面白くなってきたよ。
月姫2見えてきたよ!」って言い出して(笑)
編集 27祖は最初から決まっていたわけではなく、
資料集作成の最中に決めていたと
奈須 10人くらいは頭にあったんですよ。で、全部作ることになって、
以前没になったキャラクターとか、ちょっと遊び心をきかせて、
某タイプ・マアキュリー(註6)さんを入れてみようとか、
まあやってたわけです。
で、これがこういう風にあるならこういう話をしたら
すごく面白いぞ。これを「月姫2」にしよう、という
ヨタ話というか、馬鹿話が結構なところまで
できあがってしまったんですが
「これはもう月姫じゃないだろう」と(笑)
一同 (笑)
OKSG もしやっても恋愛物には絶対ならないだろうと
聞いていたんですけど。女の子出ないんですか?
武内 え、嘘。そうなの?
奈須 えー、3、4人ほど
武内 アルトルージュがヒロインなんよね。
それだけは聞いてるんだけど
奈須 馬鹿話だから・・・いいかな?
武内 まあ、やめときましょう。
本気にとられると困るんで(笑)

to be continued…

註2
2001年10月8日に開催された「月姫祀〜秘初〜」のこと。

註4
とかいいながら、結果はみなさんご存じの通り。楽しいものをありがとうございました

註6
死徒オルト。27祖の5位にしてアリストテレスの1柱