■第一回 月姫前夜
■第二回 初期衝動
■第三回 産みの苦しみ
■第四回 明暗
■第五回 名残りの月
■第六回 閑話2
■第七回 奈須
■第八回 茄子
■第九回 冥土。
■第十回 比翼の鳥
■番外編 6時間耐久チャット
■番外編 その2 サークル紹介


註1
以後の2人の口調に注目

註3
ものの見事に聞き流されてます(笑) このあたりの会話は仲の良い夫婦のようで、 非常に微笑ましいものがあります

註5
アルクェイドとシエルの確執は 既にこの頃から始まっていたのです。恐るべし


第四回 明暗


絶対後悔させないような時間を提供したかったんです
編集 ゲームを作る際
「これだけは絶対にゆるがせにできない」
という方針等ありましたら
奈須 そうですね・・・やっぱりその、小説を書いているわけでは
ない。ゲームとしてやってる以上、モニターの前で
何時間もいるってことは大変なことだと思うんですよ。
これだけ娯楽があふれている今の状況において、
5〜6時間もモニターの前で拘束する。
そうさせるからには絶対に後悔させない時間を提供したい。
あくまで娯楽として考えて、やった後で簡単に忘れられない
ような時間を提供したかった・・・と、一丁前のことを
言ってみたり(笑)
武内 一丁前ですねぇ
編集 (笑)
武内さんの方はどうでしょう?よくお使いになる言葉に
「すごく面白くて、少し泣けて、十分にHなゲームにする」
というのがありますが
武内 ええ
編集 これを見て、実際にゲームをやって感銘を受けまして
奈須&武内 (笑)
編集 「すごく面白くて」が最初に来るのがすごくいいなあと。
この辺、ある意味非常に同人らしいとも思ったのですが
武内 単純に、奈須が文章を書けば面白いんですよ
奈須 アハハハハ・・・(照れている)
武内 変に暴走さえしなければちゃんと面白い方に持っていける。
それはあったな、と思うんですよね。そこに付加していく
ものとして、Hな部分、泣ける部分っていうのを。
今ある既存のゲームにしてみても結構食い足りないな、
と思う部分があったんですよ。でまあ、自分たちがそういう
食い足りないと思う部分を全部補完したいな、
っていうのがありましたね。
編集 月姫は自分達の理想を形にしたものであると
武内 そうですね
奈須 理想というよりは基本ライン。偉ぶっているわけでは
ないですが、とりあえずこのくらいまではやっておかないと、
ていう。理想という言葉を出してしまうと(月姫は)ゲーム的に
その、アレな部分が多いんで(笑)理想からは遠いという
気はします
武内 なぁるほど(註1)

30日使わないと恋愛は表現できない?
奈須 月姫は結局、各ヒロインの流れになったらその大きい
流れの中で多少分岐するだけなんですが、ホントは
川の流れそのものを変えたかった。時間的に無理
だったんですが(当時は)「そういうのが欲しいんだ!」
と言っていまして。1ヒロインに1日分くらい大きく分岐する
大分岐を用意しよう、と。ところがまあ、この人(武内)は
あんまりゲームやらない人なんで。
こっちがチャート作ってる時に(やる気のない口調で)
「別にいいと思うけど」「今のままで十分だよ」
とか言うんですよ(笑)でも、もっとゲームゲーム(したものに)
したいんだい!と
武内 あのですね、最初は半年間で作ろうと思ってたんですよ
奈須 ご、ごめんなさい(笑)
武内 それがもう、
奈須がですね、はじめはすごくてですね
「30日間使わないと恋愛は表現しきれない」とか言って
一同 (爆笑)
奈須 いや、違います!日常、日常です!日常
武内 嘘。恋愛って聞いた、俺は。1ヶ月間無いとダメだって。
あの、月姫ってだいたい10日くらいじゃないですか、話として。
(最初作ろうとしてた時は)3倍の量があったんですよ。
1ヒロインに対して。今でも8時間かかる(註2)
じゃないですか。1ヒロインで24時間かかるっていう
奈須 ちょうど1日で終わる(註3)
武内 そんな話を4ヒロインとか5ヒロインで考えていて、もう。
「空の境界」の時も思ったんですけど、もともと奈須って
書く量がすごく多いんですよ。それで(奈須が)
「とにかく減らして。(武内君が)こう、押さえないと
どんどん増えていくから」って言うんで
(やさしく、なだめるような口調で)
「その辺にしとこうや」とか「減らそうや」ということは
言ったんですけど

なんでもない日常の大切さ、
それを表現するために30日が欲しかったんです
編集 あのボリュームのまま30日やるつもりだったので?
奈須 いや、スパンが30日の頃は1日あたり1時間で
終わればいいかな、と思ってたんですよ(註4)
武内 終わってなかったよ
奈須 そうですねー。どうかしてたんでしょう。あのですね、
(ヒロイン達の中で)シエルというキャラクターのコンセプトは
「主人公における日常」だったんですよ。30日というのは
あくまでシエルのためだけに用意した、と言っても過言では
ない。要するにはじめの3〜4日でシエルが出てきて、
1週間くらい先輩と学園生活をしてああ、楽しいな、と
プレイヤーに思って欲しくて。
で、その後でああいう展開が待っている。その「日常」の
ためだけに30日が欲しかったんです。逆に言えばその、
30日という長いスパンがアルクェイドの足枷だったん
ですよ(註5)結局10日にまとめなおして、
今の形に収まりましたが、一番初期コンセプトから
外れてしまったのがシエル。日常の大切さを表現しきれ
なかったというのがまあ、残念と言えば残念。ただまあ、
たしかに30日というのは・・・自分もその
「30日をやめよう」と言われましてすごい反感を
覚えたんですよ。そんなのやだ、と。それが1999年。
12月25日あたりの話。ケンケンゴウゴウになりまして。
ちょうどその頃、私はあるゲーム会社にお手伝いのような形で
勤めていたんですが、その会社が作っているゲームの
シナリオをちょっとまあ、手直ししてまして。
「んー、冒頭とか、すごく無駄だなあ」
「こんなのにつきあわされたら、たまんないなあ」
          ・
          ・
「30日つきあわされるのも、たまんないなあ」
ということに気づきまして(笑)電話して、
「ごめんなさい。作り直します。自分が悪うございました」
一同 (笑)
武内 恋愛物っていうのを、奈須がすごく意識してた部分が
あったんですね。自分が恋愛物をやる以上は既存の物とは
違うモノにしたい、っていうのが強かったみたいで。
自分の中では別に恋愛物を作ろうっていうつもりは
なかったんで。その辺、ちょっと相違があったみたいです。
奈須がいつも作っているものをやってくれればいいのに。
恋愛物のフォーマットで面白いものにしよう、って
こだわっちゃってて
奈須 「恋愛物にはするけど、主人公は絶対カッコよくする」
というのは、逆に言うとすごく「恋愛物」っていう言葉に
とらわれていた
編集 それでまあ、半年で作る予定だったものが延びに延びて
奈須 ソース自体は4ヶ月くらいでできてたんですけど。
慣れないゲーム作りで自分達が作ったものを組み合わせて
ゲームにするっていう、スキルがまったく無かった。
それであれよあれよと言う間に・・・
武内 実際、馬鹿みたいに長いシナリオだったんで。
テストプレイとかもあんまり考えてなかったっていうのも
ありますし、サークルの中の足並みもなかなか
揃わなかったっていうのもあるんですね。
基本的に自分と奈須だけの作業でずっと進んでいく予定で、
ある一定期間になったらプログラムとサウンドに
入ってもらうと。ところが、全部用意するのに半年間も
かかっちゃいましたから、プログラムもサウンドも
すでに職を持っちゃってまして。自由に時間が使えない、
っていうことになってきて。
結局夏には間に合いませんでした。まあ、でも今はそれが
すごく良かったなと思うんですけどね。夏でプレビュー版を
出してその反応をいただいて。そこですごく気に入って
くれた方がいて、その方に協力してもらって。
テストプレイしてもらったり、あと誤字を見てもらったり
とか(註6)その他にもスキップが欲しいとか、そういう
意見を組み込むことができたというのもすごく大きかったな、と
編集 実際、その期間が無かったら琥珀のシナリオは
生まれていなかったわけですからね
武内 あと、「月蝕」も無かったですね

to be continued…

註2
某「カ〇フルピュ〇ガール」誌 の月姫紹介記事では 6時間くらい となっています。これは 「実際のプレイ時間を書いてしまったら、 見た人が引くのではないか」 と危惧した彼らが、 圧力をかけた結果であったりなかったり

註4
1日あたり1時間だと、30日で30時間なのですが・・・(笑) もっともらしく言われていたので、聞き流していたようです

註6
「B46」さんのことであると思われます